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小論文教育 No18 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか(ver3)」

小論文教育 No18 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか(ver3)」

 

 いよいよ、今年も終わりが近づいています。先日、2023年度の政府予算案も決定されました。皆さんはどう思われましたか。このブログは、若い方が読んでいると思いますが、皆さんの社会制度への理解が深まり、さらなる解決案が表明されることを期待しています。

 

 来年度予算は、コロナ以前(2019年度)よりも巨大な110兆円を超えます。そして、これを賄うのが日本国債です。また、日本国債長期金利の上限も0.50%に引き上げました。元利負担が増えます。金利負担が引きあがると、割引現在価値から考えると、割引率が高まりますので将来世代に借金が先送りされてしまいます。もちろん、税収源を大きくしないと、日本の借金(1000兆円を超えています)を返済して行けません。

 というわけで、現制度の問題点が、次々と明らかになってきていますね。

 

 さて、前回の問題の続きです。(資料4については、小論文教育 No17を参照してください)

 

 問二 資料4「日本のジェンダー指数 分野毎の項目別内訳」から読み取れることは何か、三点指摘せよ。

 

 問二の解答を、私が書いてみました。次のものです。

 

「政治」の分野の推移は、いずれの内訳の指数もほぼ変わらず、順位は低下している。内訳の男女比はいずれも低く、国会議員の数や女性の閣僚の数も少ないことがわかる。

「経済」の分野の推移は「専門職・技術職の男女比」以外の指数がいずれも改善されている。「勤労所得の男女比」「議員、幹部職・管理職の男女比」「専門職・技術職の男女比」の順位は顕著に低下している。中でも、「幹部職・管理職・専門職・技術職」の女性の雇用率が低いことが男女の所得格差をもたらしているとわかる。

「教育」の分野の推移は「高等教育在学率の男女比」の指数は改善しているが、順位は低下している。この項目について、日本以外の諸国の女性の進学率が日本以上に上がっていることがわかる。

 

 解答について説明します。指数、順位の読み取りは上昇、変化なし、下降(低下)で大きく捉えてください。次に、その指標から日本社会の特徴を指摘します。「女性の国会議員数や閣僚数」、「男女の所得格差」、「女性の進学率」については必ず指摘しなければなりません。

 ですから、ジェンダー指数に大きな差が見られない、「健康」の分野の推移については、指数・順位がほぼ変わらないように、三点の指摘から取り上げなくていいと思います(もちろん、男女の格差が見られない水準に到達し、それを維持して、世界の中から見ても超高齢社会になっているという「健康」の分野の特徴を説明するのが、誤りというわけではありません)。

 課題があるのは、「政治」「経済」「教育」の分野です。その課題を解決するにはどのような対策を考えますか。それが、問三の解答になります。

 

 問三 データの読み取りを踏まえ、日本のジェンダーギャップ指数の改善のために、今後どのような対策を取るべきだと考えるか、三百字以内で述べよ。

 

 解答をお待ちしています。読者の皆様、良いお年を。

 宛先はserajobin3@gmail.com

 

 

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小論文教育 No17 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか(ver2)」

小論文教育 No17 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか(ver2)」

 

 前回の岩手大学の2020年度国語入試問題の続きです。次のような問題でした。

 

 次の資料(資料1~4、小論文教育No16を参照)は、世界フォーラムが公表している日本のジェンダ―ギャップ指数に関しての資料である。これらの資料をもとに、後の問いに答えよ。

 問一 資料1から3をもとに、日本のジェンダ―ギャップ指数及びランクの推移につい て、150字以内で説明せよ。

 

 thesilentuniversさんから解答をお寄せいただきました。次のものです。

 

健康の指数は常に1に近い値を維持し続け、ランクが1位になる年もある。教育の指数は健康よりさらに1に近い値であり続け、2013年度以降ランクも上がっている。政治と経済のランクは下降傾向にあり、特に政治の指数は0に近い。それが影響し、総合のランクは低位であり続け、改善の傾向は見られない。

 

 上記の解答を①~③の部分に分け、傍線部を付けた箇所について、ご指摘をします。

①健康の指数は常に1に近い値を維持し続け、ランクが1位になる年もある。教育の指数は健康よりさらに1に近い値であり続け、2013年度以降ランクも上がっている。

②政治と経済のランクは下降傾向にあり、特に政治の指数は0に近い。

③それが影響し、総合のランクは低位であり続け、改善の傾向は見られない。

 

 ①~③について、コメント及び改善点を指摘します。まず、問題の確認です。「ジェンダーギャップ指数及びランクの推移」について「説明」しなさいとあります。「説明」なので、解答に書いた数値ではなく、数値を評価に書き直した方がいいです。

 ①については、「健康」と「教育」の分野では男女平等がほぼ実現していると、説明したらいいでしょう。②については、「政治」と「経済」の分野では男女平等の格差が顕著であると、説明しましょう。ただし、①の傍線部の指摘は誤りです。

 このように説明すると、字数が省略できますので、さらに「説明」を加えられます。③については、いいと思います。④の指摘を加えましょう。

 ④日本はG7の中で最下位で、アジア諸国よりも順位は低い、という指摘をしましょう。

 

 次に、岩手大学の続きの問題を掲載します。

資料4

 問二 資料4「日本のジェンダー指数 分野毎の項目別内訳」から読み取れることは何か、三点指摘せよ。

 問三 データの読み取りを踏まえ、日本のジェンダーギャップ指数の改善のために、今後どのような対策を取るべきだと考えるか、三百字以内で述べよ。

 

 上記の問題について、少し解説をします。問三の解答を考えるためには、問二の資料を読み取ることができるかが、鍵です。問二の資料4の顕著な特徴をつかんで問三の「対策」を提案してください。

 

主要先進国の男女賃金格差

 上記は「ジェンダー格差是正への道筋 上」の記事です(日本経済新聞朝刊2022年12月15日)。年収の男女差については、同一職場内で先進15ヵ国の中で最下位です。また、時間当たり賃金の男女差は同一職場内、国全体でも先進15ヵ国の中で最下位です。後者については、「多くの国で女性は男性より労働時間が短いため、時間当たり賃金でみると男女賃金格差は縮小」しますが、日本は突出して低いですよね。「スウェーデン、オランダ、ノルウェーの女性労働者の時給は同一事業所内の男性より8%低い程度」です。

 日本の中にいると、気づかないですよね。というわけで、問三の解答がとても、これからの日本社会で大事な事です。

 それでは、問三について、解答をお待ちしています。

 宛先はserajobin3@gmail.com

 

 

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小論文教育 No16 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか」

小論文教育 No16 小論文テーマ「日本のジェンダ―ギャップ指数、どう読み取りますか」

 

 皆さん、年末になって来年度以降の税制改正大綱が明らかになりました。生前贈与の猶予期間が短くなるようですね。税制がさまざまに改変されている中で、何に投資が行われるのかが、ますます日本社会で問われてきそうです(詳しくは「はじめての金融教育 No9 親の終活(1) 親の財産の相続をどうしますか?」)

 

 さて、日本の幸福度指数は北欧に比べると低いです。フィンランドは1位に対し、日本は54位です。その内訳にもありますが、日本は「個人の自由の選択」が低く、「寛容性」がありません(詳しくは「はじめての金融教育 No11 「消費税は高いけど社会保障が充実しているフィンランドの暮らし、どう思います?」)。

 

 こうした事態を明確に表しているのが、次のジェンダーギャップ指数です。資料1をお読みください。資料2は日本の状況です。資料3は日本のジェンダーギャップ指数のランク推移です。

資料1 資料2

資料3

 岩手大学の2020年度国語入試問題では次のような問題が出されました。

 

 次の資料(資料1~4、上記のもの)は、世界フォーラムが公表している日本のジェンダ―ギャップ指数に関しての資料である。これらの資料をもとに、後の問いに答えよ。

 問一 資料1から3をもとに、日本のジェンダ―ギャップ指数及びランクの推移につい て、150字以内で説明せよ。

 

この後、資料4とともに、問二・問三と続きます。皆さん、読み取って解答を書いてみてください。

宛先はserajobin3@gmail.com

 

次回に、解答とともに、問二・問三を見てゆきます。

 

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小論文教育 No15  小論文テーマ「高齢者の年間医療費は今後どうなるのか(解答編2)」

小論文教育 No15  小論文テーマ「高齢者の年間医療費は今後どうなるのか(解答編2)」

社会保障制度維持の財源をどう考えますか



 上のグラフ(男女1000人アンケート)から社会保障制度維持の財源として高所得・資産の高齢者の負担増はやむを得ないという回答が生産年齢のどの世代に於いても、多いことがわかります(日本系経済新聞朝刊2022年11月22日)。さて、高齢者の年間医療費の問題を、さらに深く考えてゆきます。

 

 問題2の回答をお寄せいただきました。問題は、次のようなものでした(グラフ1・3は掲載省略。『小論文教育No15小論文テーマ「高齢者の年間医療費は今後どうなるのか(解答編1)』を参照してください)。

問題2(私が問題を一部改変しました)
グラフ1やグラフ3より、65歳以上の高齢者については、医療費の支出額が今後、さらに増えていくことが想定されます。

そこで、自己負担の割合を上げようという意見が出され、今年(2022年)の10月には介護保険料の自己負担額が年収200万円以上の高齢者は引き上げられました。

その一方で、社会保険料の支出額の増大を「姨捨山」のような社会問題として取り上げるよりも、「高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境こそが問題であり、このことが我々の直面する多くの課題を生み出しているのではないでしょうか」という意見もあります。

 高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとしてどのようなものが考えられるか。あなたが有効だと考える取り組みの具体例を一つ挙げて、その取り組みが環境の改善につながる理由を説明しなさい。また、その取り組みが社会の直面している課題の解決にどのように貢献するかについて、あなたの考えを理由とともにわかりやすく述べなさい。 (500字以内)

 

Aさんからのものです。

 

高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとして、高齢者が中心となって企画・運営を行う祭りの開催が有効である。祭りを開催するためには①様々な役割を分担するために多くの高齢者の力が必要である。元気な高齢者に積極的に参加してもらうことで、持っている②経験やノウハウを十分に生かしてもらうことができる。参加した高齢者が誰かに頼られていると感じることで、③やりがいや生きがいを感じ、さらなる心の健康につながる。祭りを1回だけではなく、定期的に開催することで、より多くの高齢者に参加してもらえる環境を作ることができる。

また、このような取り組みは④孤独死の解決の一助になることも期待できる。現代社会では、昔と比べて地域交流や近所付き合いが希薄になり、孤独死する高齢者の増加はそのようなこと大きな原因の一つではないかと指摘されている。祭りを通じて⑤地域や近所での関わりがより活性化され、定期的なコミュニケーションが生まれることで、孤独死を防ぐことが期待される。また、高齢者が普段の生活で感じる不安や悩みを共有する場が生まれるという面でも効果的であると考える。

 

 ①②③の指摘にあるように、祭りを運営することで高齢者の経験やノウハウを生かし、心の健康を保持するという提案をとてもよくまとめています。④では孤独死の解決の一つになる提案もあり、さらにいいと思います。

 この問題は私が改変したものですが、オリジナルは、次のようなものです。お読みになってください。

 

筆者(注 課題文が問題に付与されています。今回、掲載しません)は「高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境こそが問題であり、このことが我々の直面する多くの課題を生み出しているのではないでしょうか。」と述べている。高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとしてどのようなものが考えられるか。あなたが有効だと考える取り組みの具体例を一つ挙げて、その取り組みが環境の改善につながる理由を説明しなさい。また、その取り組みが社会の直面している課題の解決にどのように貢献するかについて、あなたの考えを理由とともにわかりやすく述べなさい。 (500字以内)

 この問題に対する、Aさんの回答は、取り組みの具体例、また改善の提案、社会問題の言及という問いの要求に応え、納得できる説明をしています。及第点です。

 

 ただし、私は今回、次のような問題にオリジナルを改変しました。よく、お読みになってください。改変した部分を、オレンジ色の太字でアンダーラインを引きました。

 

問題2(私が問題を一部改変しました)
グラフ1やグラフ3より、65歳以上の高齢者については、医療費の支出額が今後、さらに増えていくことが想定されます。

そこで、自己負担の割合を上げようという意見が出され、今年(2022年)の10月には介護保険料の自己負担額が年収200万円以上の高齢者は引き上げられました。

その一方で、社会保険料の支出額の増大を「姨捨山」のような社会問題として取り上げるよりも、「高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境こそが問題であり、このことが我々の直面する多くの課題を生み出しているのではないでしょうか」という意見もあります。

 高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとしてどのようなものが考えられるか。あなたが有効だと考える取り組みの具体例を一つ挙げて、その取り組みが環境の改善につながる理由を説明しなさい。また、その取り組みが社会の直面している課題の解決にどのように貢献するかについて、あなたの考えを理由とともにわかりやすく述べなさい。 (500字以内)

 

 私が改変した問題も、後半は変わりません。問題の前半が違います。医療費の負担を巡って、生産年齢世代と高齢者世代の対立が「姨捨山」のような社会問題となり、どちらかが損得する問題になっていることを指摘しました。高齢者の医療費の負担については、所得実態をきちんと把握できていない現状では、高齢者の自己負担額を上げる対象を明確にするのが困難な状況です。ですが、生産年齢世代の負担率がこれ以上、高まれば、負担をせずに医療費を使い続ける高齢者を「姨捨山」のように切り捨ててしまう、とにかく負担を増やせという解決策に至ってしまいます。

 オリジナルの問題は「高齢者の年間医療費の問題」に対して正面から向かい合って取り組んでいないと思いました。そこで、私は問題を改変しました。

 問題に対する解決策ですが、生産年齢世代の問題を解決する役割を高齢者に担ってもらい、生きがいを感じてもらえる取り組みがないか。それが、この問題を解決する方法ではないか。

 

  生産年齢世代の問題点は何か。さらに限定して、共働き夫婦の悩みは何か。

 

 共働き夫婦の悩みを解決する役割を高齢者が担えないかという観点で、次のような解答を書いてみました。

 

 高齢者が生産年齢世代を支援する取り組みとして学校の活用がある。高齢者が小学生の登下校を見送り、交通ルールのマナーを守らせている。あるいは、放課後や休日に学童などで、子どもたちの学習を支援したり、ともに遊んだり話を聞いている。両活動ともにボランティアである。ボランティア活動だけでなく、高齢者は、生産年齢世代の経済活動を支援する取り組みに参加するのはどうだろうか。

 未就学児を育てる夫婦は、保育園の送り迎えに悩みを抱えている。高齢者を送り迎えの人材として活用すればこの問題を解決できる。夫婦にとっても始業・就業時間を気にせずに出社でき、高齢者も若い世代の家族を支援し交流し賃金を得る事ができる。高齢者は心身ともに健康を保持できる。また若い世代の夫婦も育児の悩みなども相談でき、お互いに顔の見える活動となる。そして、産休を取得し会社を休んでいる女性も高齢者の支援と保育園を利用すれば早期に職場に復帰できる。女性が職場を離れずに働き続ける環境を整備し拡大することは女性が担う社会保険料の負担を減らさず、さらに扶養控除の限度額を超えた働き方を担う女性が増えれば財源の減少傾向を止める対策にもなりうる。

 

 ここまでは、なかなか書けないかもしれませんが、社会問題を解決する意識をもつことができれば、解決の糸口はつかめるはずです。私は三鷹市のシルバー人材に、子どもの保育園の送迎では大変お世話になりました。とくに、Iさんのご支援には感謝してもしきれません。

 上記に書いたことは、そのシルバー人材センターを利用した経験をもとにしています。三鷹市のような取り組みは、他の自治体ではあまりないようです。皆さんも自分の自治体の取り組みを、調べてみてください。

 そして、こうした取り組みを自治体が主導し拡大することを願っています。もし自治体の支援が遅れていれば民間サービスでおこなえばいいのです。自分が退職したら、こうしたサービスを提案してもいいかなと、思います。

 皆さんで、社会問題を解決するサービスを企業したらどうでしょうか。そうした夢をもって、大学進学をめざすことを願っています。

 

nakatalab.hatenadiary.jp

 

小論文教育 No14  小論文テーマ「高齢者の年間医療費は今後どうなるのか(解答編1)」

小論文教育 No14  小論文テーマ「高齢者の年間医療費は今後どうなるのか(解答編1)」

グラフ1

グラフ3

前回の続きです。このグラフ1とグラフ3から国民医療費の今後の推移は読み取れましたか。

 私も次のような解答を考えてみました。

 

 グラフ3からは、一人当たりの年間医療費は60歳ごろまでは20万円を超えた程度であるが、それ以降は年齢が上がるごとに増大しているとわかる。85歳以降では100万円を超えていて、生産者年齢人口の医療負担率が高いことが明白である。

 グラフ1からは、2020年から2060年にかけて、64歳以下の生産者年齢の人口が減少するとわかる。グラフ3の医療支出が継続すると考えれば、生産者年齢の国民医療費は人口の減少に伴い、減っていく。一方、65歳以上の高齢者の人口は2040年まで増加しその後も横ばいに推移し、国民医療費は増加する。100万円を超える85歳以上の後期高齢者の人口も同様に増加し大幅な国民医療費の年間支出の増大をもたらすことが予想される。

 

 このグラフを読み取ってわかることは、現役世代(生産者年齢)が社会保険料を多く負担していて、今後ますますこの傾向が強まることです。そうすると、日本社会の成員の中で、現役世代と高齢者が二分化された社会が生まれるかもしれません。

 

 そうした二分化した社会の思考をゼロサム思考と呼びます。

 

 そこで、高齢者を対象にした、ゼロサム思考ではない新しい経済のモデルが必要になってきます。今回『OPEN』(ヨハン・ノルベリ ニューズピックス)を取り上げます。

 

 

 「貿易をゼロサム・ゲームだと思い込んで育った人は、貿易をウィンウィン現象として理解するシナリオを頭では理解しても、貿易を道徳的に容認できなくなってしまう。」(p316)

 

 昨今のアメリカと中国に於ける、経済対立などはゼロサム化していますよね。そして、そのような見方で、物事を考えて判断してしまいます。

 ですが、実際にはiphoneは、中国の部品も使われていてウィンウィン現象で、我々はさまざまなイノベーションの成果を得て、優れた商品やサービスを受け取っています。

 そして、この優れた商品やサービスは世界の高額所得者のジェフ・ベゾスだけなく、我々も利用できるのは、貿易がウィンウィンだからです。

 

 「一般人が断熱材、電気、屋内トイレのない家で我慢する必要もない。(中略)私たちの子供は、ベゾスの子供たちとほぼ同様に読み書きと、退職するまでの生きる術を習得する機会を持つ。」(p322)

 

 貿易は国外的な関係の場合です。しかし、国内の問題である超高齢社会についても、ゼロサム視点で考える傾向が、今後強くなってくるのではないでしょうか。

 

 そこで、高齢者を活用した社会モデルが必要になってきます。これは、高齢者の生きがいという個人的な欲求を満たすだけでなく、社会集団内での分裂を乗り越えるためのものでもあります。

 

問題2(私が問題を一部改変しました)
グラフ1やグラフ3より、65歳以上の高齢者については、医療費の支出額が今後、さらに増えていくことが想定されます。

そこで、自己負担の割合を上げようという意見が出され、今年(2022年)の10月には介護保険料の自己負担額が年収200万円以上の高齢者は引き上げられました。

その一方で、社会保険料の支出額の増大を「姨捨山」のような社会問題として取り上げるよりも、「高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境こそが問題であり、このことが我々の直面する多くの課題を生み出しているのではないでしょうか」という意見もあります。

 高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとしてどのようなものが考えられるか。あなたが有効だと考える取り組みの具体例を一つ挙げて、その取り組みが環境の改善につながる理由を説明しなさい。また、その取り組みが社会の直面している課題の解決にどのように貢献するかについて、あなたの考えを理由とともにわかりやすく述べなさい。 (500字以内)

 

ゼロサム思考型にならない、解答をお待ちしています!

問題2についての回答の宛先は

serajobin3@gmail.com  まで。

小論文教育 No13 小論文テーマ「高齢者の年間医療費は、今後どうなるのか」

小論文教育 No13 小論文テーマ「高齢者の年間医療費は、今後どうなるのか」

介護保険

 この記事には2000年度の介護保険制度の創設から費用が3.7倍に膨れ上がったことが書かれています(日本経済新聞朝刊2022年11月1日)。詳しくは、紙面をお読みください。

 「高齢者の社会保障費は、今後増大してゆくけど、どのように対処しますか。」

 

 「そんな問題は、政治家が解決すべきもんだい、今の自分の問題じゃない。」

 

 このような意見は、当然そのとおりだと思います。ですが、日本の社会もいよいよ逃げ場のない状況に置かれています。近年の小論文問題は、そうした課題を考える思考力を試しています。

 こうした簡単には解決できない、社会問題を受験生が自ら問い、答えを導かなければなりません。小論文以外の教科の試験は答えがある問題です。小論文は答えがない問題と言えます。ですから、自分が出した答えを採点者に納得してもらえるように、解答を書くことが必要になります。

 答えがない問題というと、哲学や思想を連想しますよね。哲学や思想って、何の役に立つかわからないし、苦手だという受験生は多いと思います。ですがご安心ください。制限時間内に与えられた資料の枠組みで、答えを出す点は哲学や思想とは違います。

 

 そこで大事なのは、採点者が納得する根拠を示すことです。

 

 そしてこの根拠の説明には、超高齢社会の高齢者と現役世代の関係を深く理解することが肝の一つになります。

 今回は、高齢者の年間医療費について考えてゆきます。(参照『新小論文ノート2023』代々木ゼミナール

グラフ1

グラフ1を見ると、2040年まで65歳以上の高齢者の人口が増えていることがわかります。その一方で、生産年齢人口は急激に減っていることがわかります。

 

グラフ3

2019年香川大学経済学部後期試験

問題1

65歳以上の高齢者世代全体と64歳以下の世代全体の国民医療費の支出額それぞれが今後どのように推移すると考えられるか、 グラフ1とグラフ3の内容を用いて説明しなさい。(300字以内)

問題2(私が問題を一部改変しました)
グラフ1やグラフ3より、65歳以上の高齢者については、医療費の支出額が今後、さらに増えていくことが想定されます。

そこで、自己負担の割合を上げようという意見が出され、今年(2022年)の10月には介護保険料の自己負担額が年収200万円以上の高齢者は引き上げられました。

その一方で、社会保険料の支出額の増大を「姨捨山」のような社会問題として取り上げるよりも、「高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境こそが問題であり、このことが我々の直面する多くの課題を生み出しているのではないでしょうか」という意見もあります。

 高齢者が元気でいながら何の役割も与えられない環境を改善する取り組みとしてどのようなものが考えられるか。あなたが有効だと考える取り組みの具体例を一つ挙げて、その取り組みが環境の改善につながる理由を説明しなさい。また、その取り組みが社会の直面している課題の解決にどのように貢献するかについて、あなたの考えを理由とともにわかりやすく述べなさい。 (500字以内)

 

まずはグラフの読み取りの問題を解答してみましょう。次に、どのような社会貢献が高齢者にできるかという問題2に取り組んでみましょう!問題2についての回答をお待ちしています。

宛先はserajobin3@gmail.com

 

www.nikkei.com

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小論文教育 No12 小論文テーマ「再分配型の社会って、どんな社会?」 『人口減少社会のデザイン』(広井良典)を読んで

小論文教育 No12:小論文テーマ「再分配型の社会って、どんな社会?」 『人口減少社会のデザイン』(広井良典)から考えてみましょう

 

 再分配型の社会って、どんな国をイメージしますか。北欧諸国のような、社会保障は手厚いけど、税負担が重い国ですよね。日本でも、「成長と分配」という主張を岸田内閣が提案していますよね。そこで、「再分配型の社会」を、小論文のテーマとして、考えてみましょう。

OECD諸国における女性の就業率と出生率の相関

  上の表は女性の就業率と出生率の相関を表しています。興味深いのは、就業率が上がると出生率も上がっています。日本では、就業率が上がって出生率が下がっています。

 なぜ、日本の出生率は低いのでしょうか?皆さんはどのように考えますか。

 

 一言でいえば、将来の不安です。

 

地域によって異なる課題

 この棒グラフは地域社会の課題を明示しています(P93)。1若者世代の減少(人口1万人未満)、中心市街地の衰退(人口5万人以上30万人未満)、3少子化高齢化の進行(人口100万人以上)という、特徴が読み取れますね。

 三つの層に地域の問題が分かれています。

 さてこれらの問題の始まりの時点はどこにあると思いますか?

 

 答えは、高度成長(1960年代)の時期にあります。ここから、始まってゆきます。

 

 ここでは、詳しい説明ははぶきます。1990年代の後半に、首都機能の移転という話題で、地方都市の活性化が取り上げられました。私も、その時代に地方都市にいました。小売業の企業誘致が行われていました。これは、中心市街地の衰退をもたらしました。

結局はバイパスを中心にした、地方都市の空洞化だけを残していきました。

 

 また、税の財源の提案をしてます。私が注目したのは、1消費税率の引き上げ相続税の対象者を増やすなどが挙げられていますが、2です。財務省も2については、2023年度の税制改正で検討しています。贈与税の優遇を削減することによって、相続税の対象者が増えることになります。

 

 本の中では「税の累進性による再分配から社会保障給付による再分配へ」(P219)という主張でまとめられています。北欧諸国などを念頭に説明しています。今までの社会保険料によるものではなく、税収を中心にした社会保障に切り替えることを提案しています。

 

 皆さんはこの提案をどう考えますか?

 

 私は次のように考えます。国の人口規模、高齢者の割合などが日本と北欧諸国では異なります。また、税収中心という提案は給与収入が増えなければ、負担感を増してゆくことになります。すると、また将来の不安が継続するのではないでしょうか。

 

 現在の社会保険料では社会保障の収支を賄うのは、もちろん難しいです。ただし、相続税の対象者の範囲を増やすだけでは、抜本的な解決にもなりません。相続については、将来の暮らし(住宅など)を親から子へ継承してゆく面が、日本にはあります。 住宅を個人で所有することを中心に、税制の改正が行われてきました。また住宅ローンの政策も進められてきました(注1「はじめての金融教育No8」をご参照ください)。

 

 再分配社会型の社会保障にすることで若い世代に於ける、経済格差を是正すると、筆者は述べています。私も、若い世代の負担を考えると、再分配の考え方の必要性はわかります。政府予算(2019年度)の一般会計歳出の内訳を見ると、社会保障が34兆円(33.6%)ほどを占め、文教及び科学振興が5兆円(5.5%)ほどです。文教及び科学振興のうち、文科省の教育予算は4.2兆円です(P182)。

 

 圧倒的に若い世代に対する負担が多いのは、この予算の内訳を見るとはっきりしています。ですから、若い世代に再分配をという考えは、よくわかります。若い世代への再分配として、教育費の再分配が取り上げられています。大学の教育費負担を減らす政策は検討すべき課題です。また、高校教育費の無料化(所得制限はありますが)などは既に実施されています。

 

 ただし、「税の累進性による再分配から社会保障給付による再分配へ」という政策の転換には、相続税税制改正を部分的に行うだけでなく、どのような社会モデルの未来を描くのかを提示する必要性を感じます。

 

 高度成長時のような成長経済を望むのは、成熟経済の日本では難しいです。再分配をしても、ある程度の経済成長をしないと、低所得者は働きたくても仕事が見つかりません。成熟経済の中で「成長と再分配」のバランスをどのように取るのか、が大きな課題です。

 

 さて皆さんは「税の累進性による再分配から社会保障給付による再分配へ」という考え方について、どのように思いますか?

 さらに詳しくは、本を手に取ってお読みください。

 

 

(注1)

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