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小論文テーマ No23 基軸通貨「ドル」の役割、わかりますか ver4(2021年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

小論文テーマ No23 基軸通貨「ドル」の役割、わかりますか  ver4(2021年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

 

前回の続きです。最後の、B問題です。問題は次のようなものでした。

B. 課題文は1997年に書かれたものであるが、 その指摘は現在も生きていると思われる。一方、課題文で述べられている、支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある事例は、ドルや英語における国家や個人の例に限らず、他にも存在すると考えられる。あなたが今後も続くと考える、支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある具体例を挙げ、そこでの両者の責任についてあなたの意見を400字以内で書きなさい。具体例は、個人、組織、国家などは問わない。

 

ここで重要なのは、傍線部です(私が引きました)まず「非対称的な関係」にあるものの具体例を挙げることです。次に、その「両者の責任」を説明することです。この条件を満たしていない答案は、点数が与えられないと思ってください。

 

ではDSCHさんの解答を見てみましょう。

B日本の政治の世界では、国会議員は男性が女性より多いという非対称的な関係があり、これは世界的にも異例のことである。これではケアのような長い間女性が負担してきた職への支援などの法整備が進みにくくなる。

男性は高度経済成長期から男が働き、女は家事をするといった旧来の価値観を、政治の世界に適用してしまい、このモデルを維持している。今求められているのは、性別ではなく、能力によって議員としての資質を評価することである。

一方女性も、有権者投票率の低さを考慮すると、選挙権を行使し、女性の地位向上を掲げるような候補に投票すれば、議員の男女比について国民の声を直接反映することができる。投票によって男性中心の現状では問題視されなかったことが社会全体に認識されれば、偏った男女比は少しずつ改善されてゆくだろう。(346字)

 

問われている二点についてDSCHさんの解答を検討します。「非対称的な関係」については説明できています。ただし、男性と女性の「責任」を説明できていません。表面的な事象をつなぐのでなく、男女の「責任」を深彫りした説明が求められます

ではどのようにしたらいいでしょうか。みなさんだったらどのように、この解答を書き直しますか。他者が書いた解答を、自分事として書き直すことは、小論文の力を向上させる近道です。挑戦してみてください。

 

私でしたら、次のように書き直します。説明の都合上、DSCHさんの解答に1~8の番号を振りました。私が、書き直したい箇所です。みなさんだったら、どの箇所をかきなおしたいでしょうか。

 

B日本の政治の世界では、国会議員は男性が女性より多いという非対称的な関係があり、1これは世界的にも異例のことである。2これではケアのような長い間女性が負担してきた3職への支援などの法整備が進みにくくなる

男性は高度経済成長期から男が働き、女は家事をするといった旧来の価値観を、政治の世界に適用してしまい、4このモデルを維持している。今求められているのは、5性別ではなく、能力によって議員としての資質を評価することである

一方6女性も、有権者投票率の低さを考慮すると、選挙権を行使し、女性の地位向上を掲げるような候補に7投票すれば、議員の男女比について国民の声を直接反映することができる。8投票によって男性中心の現状では問題視されなかったことが社会全体に認識されれば、偏った男女比は少しずつ改善されてゆくだろう。(346字)

 

では、説明してゆきます。傍線1についてですが、国会議員の比率が「非対称的な関係」の国は多いので、この表現は誤りです。小論文の解答に書く際には「異例」という言葉は避けることを勧めます。ここは、次のように書き換えたらいかがですか。「ジェンダーギャップ指数の高い先進国の一つである」と。

 

傍線2については、「ケア」の内容を明確にしたほうがいいです。「超高齢社会の中で必要とされるケアは」と直します。傍線3については、「職への支援などの法整備」の内容がわかりにくいです。「ジェンダーギャップ指数を解消する法整備が進まなかった」と直します。

 

傍線部4について、ここも内容を明確化したほうがいいです。「社会的な行き詰まりをもたらした責任がある」と直します。ここで重要なのは、問われている「責任」を説明することです傍線部5について、前の文とのつながりが大事です。「性別」ではなく、「能力」が大事であるという主張はいいです。ただし、この文の文脈のつながりがなく、書かれている印象があります。「旧来の価値観で作られた法制度の問題を解消することである」と直します。

 

傍線部6について、「女性」一般の有権者投票率が低いという内容ですが、例えば年齢層で投票率は異なっています。ここは、一般化できないことですので、「若年者の女性」と特定化したほうがいいです。「若年者の女性の投票率の低さを考量すると、彼女たちが」と直します。傍線部7について、問われている内容の、女性の「責任」を説明します。「投票することで女性の声を国政や市政に反映させる責任がある」と直します。

 

傍線部8について、小論文では自分の期待や希望的な観測は触れないほうがいいです。たとえば、大学の志望動機や面接では触れなければなりませんが、この問題では必要ないと思われます。「女性の投票行動によって議員の男女比が解消されないようであれば、クゥオータ制の導入などで女性議員の比率を上げる政策を検討すべきである」といった内容に言い換えたらどうでしょうか。

 

次のものは、私が書き直した解答です。

B日本は国会議員の男性が女性より多いという非対称的な関係があり、ジェンダーギャップ指数の高い先進国の一つである。超高齢社会の中で必要とされるケアは長い間女性が負担してきたが、ジェンダーギャップ指数を解消する法整備は進まなかった。

男性は高度経済成長期から男が働き、女は家事をするといった旧来の価値観を、政治の世界に適用してしまい、社会的な行き詰まりをもたらした責任がある。今求められているのは、旧来の価値観で作られた法制度の問題を解消することである。

若年者の女性の投票率の低さを考量すると、彼女たちが選挙権を行使し、女性の地位向上を掲げるような候補に投票することで、女性の声を国政や市政に反映させる責任がある。女性の投票行動によって議員の男女比が解消されないようであれば、クゥオータ制の導入などで女性議員の比率を上げる政策を検討すべきである。(369字)

 

解答の字数は制限字数の九割に増えました。DSCHさんの解答の字数ですと、八割弱なので、時間があれば九割は書き足した方がいいです。

とりあえず、B問題について説明してきました。赤本のB問題の解答については、後日、ふれる予定です。

 

また女性の労働の在り方は、「小論文教育ブログ」で取り上げ続けてきました。またnakatalab「はじめての金融教育」でも、実数や法制度を挙げる中で、取り上げています。ご参考にしてください。

 

小論文の問題を解く際に、日本の社会問題の中で自分事として解決したいという問題意識を持っていることが大切です。私は、ライフイベントの中で「男女の雇用」と「超高齢社会を維持する社会保障制度」を問題意識として持っています。ここで、お書きしているのはその二つを深彫りして説明しています。

ですので、読者が受験生でなくても、専業主婦であっても、性別や年齢を問わず、どなたでもこの問題を乗り越えてゆくための考え方(「小論文教育ブログ」)や法制度の利用(「はじめての金融教育」)を提案しています。

 

寒さが厳しいですが、受験生の読者のみなさまにとって、幸福が訪れることを祈っています。

 

追記

 お約束していました赤本のB問題の解答を検討します。おそらく、受験生は具体例として歴史的な事実を考える人が多いと思います(赤本の解答例は省略します。実際に手にとって読んでください)。

 

 赤本では「核不拡散条約」に於ける、「核保有国」と「非核保有国」の例が挙げられています。両者は核を持つ・持たないという非対称的関係です。ただし、「核をもつ」ことが「軍事的な優位」を示すように、世界全体の情勢を左右する、支配的な国々と、そのことの影響を受ける、被支配的な国々という意味では「支配関係」は存在しないと言えるかは、微妙な具体例ではないかと思われます。軍事力とは、支配関係にかかわるものと一般的には考えるのではないでしょうか。

 「非核保有国」の責任として、「核保有国の動向の監視」や「核軍縮や紛争の平和的な解決」を挙げています。前者の責任は解答にある「国際原子力機関」の責任ではないかと思われます。後者の「紛争解決」の責任は「国連」ではないか。そうすると、「非核保有国」の責任とは何ですか?

 

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