nakatalab小論文教育ブログ

考えて書く力を習得する、小論文教育

小論文テーマ No22 基軸通貨「ドル」の役割、わかりますか ver3(2021年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

小論文テーマ No22 基軸通貨「ドル」の役割、わかりますか  ver3(2021年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

 

前回の慶応大学経済学部小論文問題のA要約の続きです。次のものは赤本の解答です。

 

 A. アメリカ経済の圧倒的な強さを背景に基軸通貨と なったドルは, 貨幣が貨幣であるのは,それが貨幣として使わ れているからであるという自己循環論法により, アメリカを介在せずに世 界中で流通している。 そのため, アメリカは自国の生産に見合う以上のド ルを流通させ,その分だけ余分に他国の製品を購買できるという特権をも つ一方で、 自国の貨幣であっても世界全体の利益を考慮して発行せねばな 点 らないという責任も負っている。 (200字以内)

 

 この解答について検討します。赤本の解答は「自己循環論法」によって世界中にドルが流通しているという説明をしています。この「貨幣が貨幣であるのは、それが貨幣として使われているという自己循環法」とは、何を意味するのか。私には、よくわかりmません。皆さまは、いかがですか。「自己循環法」は別の言葉で言い換えて説明する必要がありますね。

 次の「余分に他国の製品を購入できる」という説明は、あってもなくてもいいかな。

さらに次の「自国の貨幣であっても世界全体の利益を考慮して発行せねばならぬという責任も負っている」ですが、なぜ「責任」があるのか、という説明にはなっていないと思われます。前回にお書きしましたが、世界全体を経済不況にするというインフレ政策を説明しないと、「大きなアメリカ」の役割はわからないと思います。

 要約問題について、本文の言葉をつないで書くのは当然です。ただし、赤本の解答は本文の言葉をつないで書いてあります。そのため、「大きなアメリカ」の役割を説明できていないと思われます。

 

 さて、DSCHさんに前回の解答の誤りを指摘し、書き直してもらいました。その解答を見てみましょう。

A ドルは無制限に供給されることで基軸通貨となった。そうして通貨が全ての国々で使われる基軸国アメリカと、ドルを介して交渉せざるを得ない他のすべての非基軸国という非対称的な構造が生まれた。またアメリカはドルが発行するほど儲けられる君主特権を持っているが、過剰発行をすれば世界的なインフレを招き、基軸通貨の信用は失墜してしまう。ドルは世界全体の利益を考慮し責任を持って発行される必要がある。(191字)

 

 赤本の解答よりもDSCHさんの解答の方が、断然いいでしょう!というわけで、市販されている解答を批判的に読み込むことが大切です。慶応大学の小論文では、難解な文章が出題されます。小論文の参考書を数多くお書きになっている樋口裕一は、慶応大学の小論文問題について、わからない内容でも字数を埋めなさいと助言しています。赤本の解答も、そこまでわかっていないという内容ではないですが、本文の言葉をつないで字数を埋めた解答になっていますね(教学社さん、解説及び解答のご依頼、受領しますよ)。

 というわけで、小論文は付け焼刃でどうにかなるものではないと、ご理解して下さい。前回にご説明した内容は深彫りしたものになっているので、基軸通貨の役割を理解できると思います。

 

 次回はB問題を解説します。問題は次のようなものでした。

B. 課題文は1997年に書かれたものであるが、 その指摘は現在も生きていると思われる。一方、課題文で述べられている、支配関係は存在しないが、 非対称的な関係にある事例は、ドルや英語における国家や個人の例に限らず、他にも存在すると考えられる。あなたが今後も続くと考える、支配関係は存在しないが、非対称的な関係にある具体例を挙げ、そこでの両者の責任についてあなたの意見を400字以内で書きなさい。具体例は、個人、組織、国家などは問わない。

 

読者のみなさま、ご解答をお待ちしています!

 

 

 

nakatalab.hatenadiary.jp

 

 

nakatalab.hatenadiary.jp