nakatalab小論文教育ブログ

考えて書く力を習得する、小論文教育

小論文テーマ No25 多数決に於ける同調圧力、わかりますか ver2 (2022年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

小論文テーマ No25 多数決に於ける同調圧力、わかりますか  ver2(2022年慶応義塾大学経済学部 小論文問題より)

 

 3割程度の「確信者」の意見が多数決で大意になっているという課題文でした。自由な意見が述べられるSNSにも関わらず、こちらも3割程度の「確信者」の意見に同意することになる。自由な個人が同調圧力の中で不自由であるという、民主主義社会のパラドックスです。

 さて、一般入試も近づいてきましたので、本文の解説はここまで。B問題を取り上げます。次のような問題でした(課題文は前回の内容を参照してください)。読者のみなさま、お読みください。

 

 B.課題文を踏まえた上で、課題文Ⅱにおける「学問への参入者の増大」により生じうる問題 と、それに対して「一人の人間が持つ知性が一体どんな意味を持ちうるのか」について、あなたの考えを400字以内にまとめなさい。

 

B問題の解答をDSCHさんから、いただきました。内容としては、十分な解答だと思います(傍線部は私が引きました)。

 

B 学問の参入者が増大すると一般の人々が研究に参加し貢献するような活動がおこりはじめる。しかし世界中の人々が研究のためにデータ収集に関わるようになると、かえって一般の人と科学者との間に階層化が進展し、少数の科学者が階層の頂点に立ち、全体のトレンドに影響を与えるようになる。このような状況では一人の人間がもつ知性はないがしろにされ、専門知のみに重点が置かれるようになってしまう。一般の人は専門知に囚われない、より「生活に根ざした地域レベルの知」を持っており、こうした個人の真意を的確に科学者などの専門家に反映させるためには、現在の多数決型の合意形成ではなく、お互いに様々な意見を出しあって合意形成をおこなうディスカッション型の導入と普及が必要であるといえる。(363字)

 

 60分の制限時間ではこれで十分です。ここでは、さらに細部をつめてみます。傍線部の解答「お互いに様々な意見を出しあって合意形成をおこなうディスカッション型の導入と普及が必要である」が、問いの「一人の人間が持つ知性」の「意味」に対する答えにはなっていません。意見に階層性があるので合意形成を行う形式の導入が必要だというDSCHさんの主張になっています。

 

 また、意見の階層性を前提として、傍線部「生活に根ざした地域レベルの知」の意味とは何かにはご指摘がありません。ここを深彫りすると、問いの「一人の人間が持つ知性が一体どんな意味を持ちうるのか」の答えを考えることができたのではないでしょうか。

 

  ではどのように考えればいいのか。

 

 専門知と「生活に根ざした地域レベルの知」である実践知のずれを具体的に指摘するといいと思います。私であれば、「育休制度」の問題を指摘して書くと思います。

 

B 学問の参入者の増大により、世界中の人々が研究のためにデータ収集に関わる。この結果、一般の人と研究者との間に階層化が進展し、少数の研究者が階層の頂点に立ち、全体のトレンドに影響を与えるようになる。 たとえば、企業組織の研究者が企業内の男性の育児休業の取得率を改善することを目的に、企業内の男女の職務内容の違いを調査し男性の働き方の提案をする。実際に、情報提供者である男性は、企業内の問題だけでなく男女の雇用制度の運用や正規・非正規の違い、地域のサポートなどで育児休業を取得しない判断をしている場合が多く見られる。企業組織の研究者と情報提供者の市民は問題を解決する上で協力しているが、実践現場の市民の知を取り上げずに研究者の志向のもとに大量の情報データを収集し分析することになる。実践現場に根差した知こそが一人の人間の知性である。研究者は市民の視点から問題を検討し生活に根ざした知を作ることができる。(398字)

 

 研究者と市民のずれを具体的に説明すれば、最後の「お互いに様々な意見を出しあって合意形成をおこなうディスカッション型の導入と普及が必要であるといえる」の文が必要なくなりますよ。

 DSCHさんの解答は具体例が挙げられていませんが、制限時間内で具体例を挙げられなかった場合の解答としては、ありかなと思います。ただし、小論文の問題なので具体例が挙がっていないのは、減点対象になります。

 B問題の駿台の解答の検討については、後日配信します。

 2021年度のB問題の赤本の解答の検討については、配信しています(小論文テーマ No23 基軸通貨「ドル」の役割、わかりますか  ver4)

 

追記 

 お約束していましたB問題の駿台の解答について検討します。次の解答です。生態系や環境科学を具体例に取り上げています(私が傍線を引いた箇所)。

 

 急速に増加する「シチズン・サイエンス」の例として生態系や環境科学を取り上げる。自分達の生態系や酸性雨や環境変化について、一部の学者のみならず、市民自らがその取り巻く様々な環境に取り組んできた。それはインターネットと同時並行で拡大してきた。そこで実現したのは、学問の分業構造に市民が組み込まれ、少数の専門家が非公式のエリートグループを作り、階層秩序の頂点に立って取り仕切る構造であるかも知れない。しかし、長期的視点に立つ時、温暖化や気候変動に有効な対策を実現するには、市民層が自らの間題として捉え、地域のコミュニティのあり方、働き方、住宅・交通のあり方を全面的に変える必要がある。当事者としての市民が専門家や政府との対話を通して高い知性を持ち続けること無くして、21世紀最大の課題である温暖化に対応できない。単なる専門家への同調ではなく、自らの知性を用いることで、より高度な集合知を形成すべきである。(397字)

 

 最後の二文が問いの「一人の人間が持つ知性が一体どんな意味を持ちうるのか」に対する答えとなっています。「対話を通した高い知性」や「高度な集合知」となることが解答ですよね。こうした「知性」が、温暖化対策の市民レベルでは何を指しているかが、私にはよくわかりませんでした。たとえば、脱炭素対策の消費行動や生産活動など、多様な知があるかなと思いました。具体例はできりかぎり絞って、論を展開することを読者の皆様にはお勧めします。

 受験生の皆様、来週の試験でよい成果を得られますように!

 

 

 

nakatalab.hatenadiary.jp

 

nakatalab.hatenadiary.jp