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小論文教育 No11 日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題(解答編)

小論文教育 No11   日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題(解答編)

出生率

 この記事は出生数が大卒以外(妻の学齢)では低下しているが、大卒(妻の学歴)では上昇していると指摘(日本経済新聞朝刊2022年10月10日)。女性の教育歴が上昇することで出生率が下がると、一般的には思われています。先進国と発展途上国を比べると、そのことはわかります。あるいは、女性の大学進学率の上昇と出生率の相関を考えると、そうかなと思われます。ですが、この場合、日本の例ですが、その相関が当てはまりません。

 

 なぜでしょうか?  

 

 所得が関連していると指摘しています。

 

 賃金が上がらなければ、将来の生活のために消費を控えます。そして、その将来の不安が大卒以外(妻の学齢)の家族では出生数の減少につながっているわけです。所得格差が出生数の低下につながっているという、困った状況になっています。かつての高度成長の時代は、賃金の上昇があったので出生率は伸びていましたよね。

 ですから、賃金の引上げが大切になってくるのです。

 ただし、ゼロ金利の日本企業は固定費(賃金)を抑制してきました。だから、困った状況にあるのですが。このことについては、また別の機会に。

 

 さて、話を前回の問題に戻します。次のような問題でした。

 近年、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合が増加している。表は、令和元年に実施された調査結果で、「あなたの睡眠の確保の妨げとなっていることは何ですか。」という問いへの回答結果を示している。この結果を分析し、睡眠を確保するために必要な対策について、あなたの考えを600~800文字で述べなさい(2022年 順天堂大学 医療科学部 総合型選抜 入学試験問題)。

 次のものはthesilentuniversさんからの解答です。四部分に分けてご指摘をしたいと思います。

 

 図表を各世代の違いに注目して見ると、「仕事」や「家事」は30~39・40~49・50~59歳の割合が他年代に比べて多い。労働年齢の世代は、仕事をする人はしない人に比べて家事に時間を割くことが難しいため、家事の負担が睡眠の妨げになっていると感じる人も多く、「仕事」と「家事」には強い相関関係があると考えてよい。さらに「育児」は30~39歳が最多である。これは30~39歳で出産する人が多いことと強く関係していて、例えば夜中に泣き出した子供をあやすために起きれば、睡眠の妨げとなる。一方、「介護」は50~59歳から、顕著な増加傾向に転じている。これは親が介護を必要とする年齢になる人の増加が背景となっている。また、「健康状態」は30~39歳から段階的に増加している

 

  世代ごとに特徴を指摘しているのはいいです。ただし男女の違いは説明できていな

いですね。ここは、男女に分ける部分と男女に共通する部分の悩みを指摘すると、き

細やかになると思います。

  傍線の部分は、細かい特徴だと思います。このことを指摘するよりは、20代と70代

の男女の悩みをそれぞれ指摘した方がいいかなと思います。

 

 男女別で見ると、「仕事」が女性と比べ男性の割合が顕著に多く、「家事」・「育児」においては男性に比べ女性の割合が多い。この2つの傾向は「女は子育て、男は仕事」の概念から派生する「男性が育児をしにくい環境」が影響している

 

  傍線部は「影響」という要因を指摘しています。問いは「必要な対策」をきいているので、「対策」を書いてください。

 

 これらの傾向や問題点への対策としては、まず、週や月単位で定時退社をする日数を定めた制度を創設することが必要であると考える。これは残業時間の削減を目的としていて、労働時間の削減により、仕事が睡眠の妨げになる人が減少することが期待できる。仕事量が変わらなければ効果はないと指摘する人もいるかもしれないが、洗濯などの家事の合間に仕事をすれば効果は期待できる。加えて、男性の育児休暇取得さらなる促進で家事や育児を睡眠の妨げと感じる割合の男女の差も小さくなっていく。

 

  傍線部は「働き方改革」を進めるとまとめてしまうのはどうでしょうか?その分、余った字数で「女性の働き方」のサポートの面を書くといいでしょう。

 

また、健康状態が睡眠の妨げとなる人が30~39歳の世代以降増加傾向にあることは、加齢による体力の衰えなどに端を発していることが推測されるが、国や企業による定期健康診断受診のさらなる促進により、若い年齢のうちから健康への意識を強く持つことが必要である

 

  傍線部のことよりも、70代以降の高齢者の悩みの対策を書いた方がいいと思います。

 次の解答はGAKKENのものです。

 

 睡眠の確保の妨げとなっている原因は、年齢や性別によって異なる。よって、対策を立てるときにも, それぞれのライフサイクルの特徴に配慮する必要がある。20代では男女ともに「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」が多い。男性では, 30代から 50代では 「仕事」 が多い。女性では、結婚や出産の時期である30代から40代には 「家事」や「育 児」が増える。60代以降は男女ともに、健康状態やその他の要因を回答に挙げる人が多くなる。なお「特に困っていない」と答える人は年代ごとに多くなる。つまり、 20代への対策としては、 睡眠不足による悪影響などの知識を広めるなどして、 睡眠の妨げになっている行動をコントロールできるようにすることが効果的と言える。30代以降については、 男性に対しては仕事の、女性に対しては家事や育児の負担を減らすことが対策になると考えられる。具体的には、まずは業務を適切な責任や量に調整し、長時間労働を減らすことが有効と思われる。男性はもちろん、働きながら育児や家事をこなす女性にとっても仕事の負担が減り, 睡眠の時間や質を確保することができるはずだからだ。加えて、 過剰な労働から解放されれば、 男女で家事や育児を分かち合うことができるようになるはずだ。 表の結果を分析すると、 睡眠が確保できない原因は、日々の社会生活にあることがわかる。 ワーク・ライフ・バランスのとれた生活ができれば,きっとよい睡眠が確保できるようになるだろう。

 

 60代以降の不眠の対策が書かれていないのが、不十分と思います。最後に、私も解答を書いてみました。

 

 から読み取れる、不眠の背景は各世代の生活嗜好やライフイベント、世帯の人数などが関係している。不眠の原因は、20代の男女、30代の男性はSNSやメール、ゲームなどの携帯電話の使用や仕事である。子育てと仕事の両立の時期にあたる、30代から40代の女性は家事・育児が問題となっている。その一方で、家族のライフイベントよりも40代から50代の男性は仕事である。子育て期を終えた50代の女性は家事・育児を問題とする比率が下がる。一人世帯が増えている70代の男女は、健康の不安をどのように対処するかといった問題を抱えている。

 20代の男女については、SNSの拡張とともに個人情報や金融情報などのトラブルにも巻きこまれやすくなっている。そうした問題には消費者庁が相談窓口を設ける。またゲームやyoutubeなどの使用時間の増大には、メンタル面での個人的支援を行い精神的な健康に留意する窓口があるといい。

 20代から50代の生産年齢男性は、労働時間や労働条件などの悩みを抱えている。働き方改革を進めていく中で、法律を整備していく。育児休業の取得率を上げることで、共働きの女性の悩みを軽減することにもなる。

 30代から40代の女性は核家族化による子育ての孤立化に対して支援する組織や相談窓口が必要である。また共働き家族では女性が家事・育児を担っているため、負担軽減のための保育園の活用や家事支援の人材の活用が考えられる。

 70代の高齢者は一人世帯の増加傾向にあり、健康面でのサポートとなる地域医療・介護支援を構築し、NPOなども活用していくことである。

 

 20代の若者の消費活動や消費時間に於ける、携帯電話の影響、そして①女性の社会進出と、それに伴う家族形態の変化、また②所得格差といった問題、あるいは③一人世帯の高齢者の増加といった問題がこの表の数値から読み取れます。

 そうした問題に対する対策をそれぞれ、考えなさいというのが、今求められている社会の問題だと思います。①、②、③については、小論文でよく問われます。

 皆さんが、こうした問題に対してよく考えてほしいという、大学入試の出題者からのメッセージです。わたしも、こうした問題こそ、考えてほしいとおもっています。

 

 繰り返しますが、皆さん、解答を考えてみてください。そして、自分の解答と、その他の解答を並べてみることで、学べる範囲が増えてきます。読者の皆さん、解答を書いてお寄せください。

 

小論文教育 No.10  日銀の目標とする2%の金利について

小論文教育 No.10 : 日銀の目標とする2%の金利について

 日本政府はインフレ目標として年利2%を掲げています。では、この2%の金利とはどのようなものか。皆さん、考えてみましょう。

 

 いま手元に10万円があり、これを利子率2%の複利で運用した場合、この金額が2倍になるのに何年かかるか。その際にlog102=0.3010、log101.02=0.0086として解答しなさい。(2021年九州大学経済学部金融工、後期日程の一部改変より)

 

 log10(1.02)n= log10 

 nlog10(1.02)= log10

 n・0.0086 = 0.3010

 n=35

 

 35年もかかるんですね。それも2%の複利で運用した場合です。実際の場面で考えると預金は難しく、生命保険などを考えると思います。

 現在、養老保険終身保険などで、2%運用できる商品はありません。その背景となっているのが、日本のゼロ金利です。どうなるんでしょうね。

 もっと金利について、考えたい方は「はじめての金融教育No8日本の金利は、いつ、あがる?」をお読みください。「割引現在価値」から「金利」を考察しています。

 

 ゼロ金利による利潤はどこへいったのでしょうか。企業の内部留保金になつています。

内部留保

当然、危機的状況が回避できたのだから、従業員の給料や預金者の金利(ゼロ金利)の引き下げた分を償還してほしいとなります。

 

実質賃金

なぜなら、実質賃金はリーマンショック以降、横ばいです。人件費を上げずに、ゼロ金利の中で、企業は内部留保金を増やしました。 

 今回の資料は「次なる100年歴史の危機から学ぶこと」(水野和夫 東洋経済新報社p .500、p .515)です。資料が豊富なので、読み応えがありますよ。著者は、企業に対する法人税を引き上げることを提案していますが、どう思いますか。

 

 小論文教育No7「インフォームドコンセントNo8「日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題」について、ご解答の募集をお願いしています。メールの件名は、たとえば「No7の問題の解答」と、送信してください。

 実際に書いてみるのと、頭の中で考えていることは異なります。ご解答メールは、まだ届いていません。今であれば、ご送信いただければご採用できます。評価すべき点や改善すべき点を、ブログ上で、ご指導できると思います。奮って送信をお願いします。

 

  宛先はserajobin3@gmail.com

 

nakatalab.hatenablog.com

 

 

 

 

小論文教育 No9 日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題

小論文教育 No9 日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題

ブレークスルー賞

 ブレークスルー賞の発表がありました(日本経済新聞朝刊2022年9月24日)。睡眠の問題は社会問題にもなっています。不眠症が解決されるといいですね。

 高齢者になると眠れなくなります。その理由は、なんとなくわかりますよね。生活バランスが崩れてしまったり、健康面での不安を抱えていたりすることが考えられます。

 では、若い世代はどうなのか? 私は若い世代ではありませんが、仕事がうまくいっていない時や、目標が見いだせなくなった時には、睡眠が乱れます。

 

 今回は次の問題を取り上げます。

近年、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合が増加している。表は、令和元年に実施された調査結果で、「あなたの睡眠の確保の妨げとなっていることは何ですか。」という問いへの回答結果を示している。この結果を分析し、睡眠を確保するために必要な対策について、あなたの考えを600~800文字で述べなさい(2022年 順天堂大学 医療科学部 総合型選抜 入学試験問題 参照「小論文問題集・分析集2022」GAKKEN)。

 こうした問題では、先に図表の特徴を説明し、その後「必要な対策」を書きます。字配りは半々、300~400字で前半、後半を分けるといいでしょう。

 図表では、大きな傾向と特徴的な指標をつかむことが要です。これは、忘れないでください。この表でも、各世代で特徴的な指標があります。その特徴の指標に〇をつけるといいです。次に、男女の傾向を大きく見ると、どのような違いがあるのか。そのことが、問いの「必要な対策」に関わってきます。

 

 それでは、皆さん、解答を考えて書いてみましょう。

 

 今回、皆さんの解答をお寄せください。その解答のいくつかをご紹介したいと思います。公開の際には、アカウント名、あるいは仮名(ご提示、あるいは私の名づけによる仮名、たとえば、No1さんなど)のいずれかを表記します。解答の最後に、その指示を記してください。

 また、小論文教育No7「インフォームドコンセント」の問題でも、ご解答の募集をお願いしています。メールの件名は、たとえば「」の問題の解答と、送信してください。

 これからは、実践的な展開をしたいと考えていますので、奮って配信をお願いします。

 宛先はserajobin3@gmail.com

 

 

 

 

小論文教育 No8 人間の判断は正しいの?小論文テーマ「インフォームドコンセント」(解答編)

小論文教育 No8:人間の判断は正しいの?小論文テーマ「インフォームドコンセント」(解答編)

バイアス

 地球上の男性の人口が女性よりも多ければ、AIはそのバイアスを学んでしまう。「people」という単語を「男性」を意味するものとして捉えてしまう。そんな機械学習の危うさを紹介しています(日本経済新聞朝刊、2022年9月11日)。

 AIが各方面で利用されていますが、そうしたバイアスをいかに修正するかが課題になってきますね。

 さて、前回の問題は次のようなものでした。

 

医師は末期がん患者に対して告知をするべきかについて、六百字以内であなたの考えを述べなさい。ただし、患者は十分な判断能力を備えた十五歳以上の者であるとする。

 

 患者への病状の告知をインフォームドコンセントと言いますよね。次のような解答を考えました。

 

 末期がん患者への告知については、医師に告知義務を課すべきだとする考えと医師の裁量を認めるべきだという考えがある。
 医師に告知義務を課すべきだとする考えは、インフォームドコンセントの徹底と患者の自己決定権の尊重を重視する。つまり末期がんであるということが判明した時に医師が患者に病状を正確に伝え、その後の方針を患者自身に決定させることは医師の義務であるとともに患者の権利であると考える。
 末期がんの告知をすれば、患者が現実を受け入れ残された人生を有意義に過ごすか、自暴自棄に過ごすかはその患者しだいであろう。患者が現実を受け入れられず人生に絶望し、自暴自棄になり、時には自傷他害に及んだりする危険性を心配し、告知をためらう医師もいるだろう。

 しかし医師は患者に告知すべきと考える。複雑な症状、治癒しがたい病状であれば、主治医の判断とそれ以外の医師の判断の相違をもたらす。その時に病状の診断を判断し治療を受けるかどうかを決定するのは患者であり主治医ではない。

 もちろん医師が告知するには、患者の理解力・判断力を考慮した上であるが、理解や判断が困難な場合には患者をよく知る家族でもかまわない。医師は告知のガイドラインに従って患者に病状を告知することを徹底すべきと考える。

 

 告知をすべき(インフォームドコンセント)かについて、賛成・反対のいずれの立場でもよいという解答を示しているものが多いと思います。皆さんは、どのように考えますか?たとえば、次のような解答は?

 

やはり私は告知の可否、時期、内容について医師の幅広い裁量を認めるべきだと考える。 もっとも医師も人である以上は判断ミスを犯す可能性もあり、全くの自由な裁量であってはいけない。そこで、告知について適切な判断がなされるためには、複数の医師が患者の年齡、余命期間、家庭環境、家族の意向、告知が治療に与える影響などの様々な事情を総合的に考慮する必要があると考える。(注「改訂版 世界一わかりやすい医学部小論文・面接の特別講座」参照)

複数の医師の判断がなされても、最終的には総合判断をするのは主治医であろう。患者が主治医の判断にすべてを任せられるのであれば、主治医に告知の判断の裁量をまかせてもいいのでしょうか。どうですか?

 

 主治医の判断と違う判断を下す医者もいます。それだけ、判断の難しい症状であれば、判断のノイズは広がりますよね。

 インフォームドコンセントは、規則であるか規範であるかという問題もあります。(規則であるか、規範であるかは別の機会に取り上げたいと思います)。

たとえば、症状について、検査の結果が数値化できるもの、あるいは相対的な評価ができるものについては、そのことを伝えるというガイドラインを作ることができます。

医者の判断よりも、ガイドラインに従って症状を告知することが、医者の判断、病院(各医者)の判断のノイズを避けられるのではないでしょうか?

 

それとも、赤ひげ(山本周五郎の小説の主人公)のような名医の判断を求めます?

 

 

(注)

 

小論文教育 No7 人間の判断は正しいの?小論文テーマ「インフォームドコンセント」

 小論文教育 No7:人間の判断は正しいの? 小論文テーマ「インフォームドコンセント

 皆さんが、窃盗罪の嫌疑を受けて裁判を受けたとします。その裁判官の判断がAさんとBさんで違ったらどうでしょうか?Aは実刑判決6年で、Bは執行猶予判決6カ月であったら、どう思いますか?

 

  公正でない、と思いますよね。

 

 裁判官の裁量権には、幅があるだろうな、しかし、A・Bほど、判決の幅があるとは誰も思っていないでしょう。この幅(スケール)を判断のノイズと言います。

 今回は、「NOISE 上・下」(ダニエル・カーネマンなど 早川書房)を取り上げます。この本の中で、統計処理として平均二乗誤差を利用して判断の誤りを指摘します。

 

平均二乗誤差 = エラーの平均(=バイアス) + エラーのばらつき(=ノイズ)

 として、平均二乗誤差を利用した心理学モデルや臨床研究を紹介しています。数理モデルについては、上巻で詳しく説明しているので、そちらを参照してください。

 

 我々が判断の過ちを犯すのは、バイアスもありますが、ノイズによっていると主張しています。

 バイアスとは、人種、性別、年齢などで対面した人物を判断する誤りです。これは、偏見とも言われます。そして、さまざまなハラスメントをもたらしています。

 一方で、射撃をするチーム(A~D)が競い合った際に、的に当たった銃弾の跡のばらつきが、各チームで違います。これを、ノイズと捉えます。

 これはおもしろい考えですよ。

 

 たとえば、皆さんが入学試験や入社試験で最終面接に進んだ際に、2~3人あるいは5人~8人の面接官を前にする場合があります。面接側は慎重に合格者を判断しなければならない。会社は採用を失敗すれば、自社の数年後の業績に関わります。ということで、面接官の人数を増やすわけです。

 ですが、カーネマンによると、人数を増やせば、その分だけ、判断のばらつきが生じるわけです。

 それに対して、自分たちの判断は常に一致しているという反論する経営者がいたとします。カーネマンはどのように応えるでしょうか?

 

  そこでは、ノイズは生じないが、その面接官の中のバイアスが生じています。

 

 裁判官、経営者、保険事故担当者、アナリストなど高度の判断の裁量を任せられている職務には、バイアスがつきものなのです。

 さらに、ノイズを次のように分解します(前掲書 下巻 p.23)。

 

  システムノイズ = レベルノイズ

  パターンノイズ = 機会ノイズ + 安定したパターンノイズ

 レベルノイズとは、ある病院でがんを診断する際に、医者(A~D)で判断が分かれる場合です。機会ノイズとは、ある医者(A)が応援している野球チームが負けた時や配偶者とけんかをした時には、ネガティブな診断をしたということです(逆もしかりです)。

 安定したパターンノイズとは、ある医者(A)は午前中の診察は検査を指示するが、午後の診察になると検査よりも診断を重視するよう傾向がある。Aはなんらかの理由(生理的、肉体的など)でそうした診断をしたということです。

 当然、カーネマンはこれらのノイズを取り除くことが患者を公正に扱うことになると言っています。

 次の問題に皆さんはどのように答えますか?

医師は末期がん患者に対して告知をするべきかについて、六百字以内であなたの考えを述べなさい。ただし、患者は十分な判断能力を備えた十五歳以上の者であるとする。(注 「改訂版 世界一わかりやすい医学部小論文・面接の特別講座」より)

 

 次回までに解答を考えて書いてみてください!

 

 今回、この問題について、読者の方の解答を募集します!私の解答は提示しましたが、

皆さんの独自の考えをお寄せください。その解答のいくつかをご紹介したいと思います。

実践的な展開をしますので、奮って配信をお願いします。

宛先はserajobin3@gmail.com

 

 

 

(注)

 

小論文教育 No6 小論文のテーマ「少子高齢化・人口減少」に、注意すべきは何か?

小論文教育 No6小論文のテーマ「少子高齢化・人口減少」に注意すべきは何か?

 

 前回の続きです。(ここから読み始めた方は「小論文教育 No5」から読み始めると、より理解できると思います)

 また「試験にでる小論文」のテーマについて、検討していきます。

 「超高齢化により、若い世代の負担が重くなり、世代間格差が大きくなる」(「試験にでる小論文」樋口裕一、青春出版社p.110)というフレーズは、その通りです。さらに「年金は~今働いている人たちが年金のために払っているお金や税金から出ている」と説明しています。「税金」から出ているというのは誤りです。年金は積み立てたものを政府が運用しています(GPIF)ので、「税金」というのはどうなんでしょうか?

 

 「少子化に歯止めがかからないと、日本の人口は減少してしまう」というフレーズ(前掲書p.113)は同義反復に近い内容になっています。さらに「人口が減るというのは、経済的に大きな問題」(前掲書p.113)とあります。確かにそうなんです。ただし、人口が増えない市場に外国資本の投資が行われない、あるいはそうした見込みの中で、円の為替レートがドルに対して円安傾向に向かう。そのために経済的な問題になるといった説明が抜け落ちています。昨今のドル高円安の為替相場を見ていれると、これからの日本市場はどうなるんだろうと思いますよね。

 全般的に、経済や金融の説明が不足していますね。

 

 「年率1~3パーセント程度の低い経済成長を続けながら、少子高齢化がさらに進んでも今の豊かさを維持できる社会にしていくほうがよいと考えることもできる」(前掲書p.119)とあります。「年率1~3パーセント程度」もGDP成長率を指しているのでしょうか?もしそうであるならば、1%と2%ではかなりの差があります。今後十年間の平均値が1%か2%かは、社会保障費の財源を左右することになります。1%では現在の社会保障費は破綻してしまいます(詳細は「18歳からも始められる金融知識 No4」)。当然ながら、消費税の増税ということが避けられなくなります。樋口先生、説明が足りませんね。

 そこで、経済・金融面の説明が十分であるかを、さらに検証したいと思います。

次に「小論文これだけ! 経済・経営 超基礎編」(樋口裕一 東洋経済新報社)を取り上げます。このシリーズは、各学部をターゲットにしています。短期間で効率よく読める参考書だと思います。

 「グローバル化」については、「中国の台頭と『新冷戦』」「新型コロナウイルスの打撃」など現在の世界情勢を踏まえた内容になっています。この点はいいです。古い参考書は、こうした「時事性」を反映していませんので、私はお勧めできません。ただ一つ難点を挙げると、具体例が乏しいかな。

 「海外から安い原材料を輸入するからこそ、便利に快適な生活ができる」(前掲書p.85)とあります。ここでも、「石油、LNGガス」のエネルギーの高騰が、生活を不安定にしていくといった具体的な説明がほしいですね。

 「人口減少社会」については、その原因として「女性の社会進出」や「育児環境が整っていない」といった内容になっています。「女性の社会進出」が進んでM字カーブ(産児退職など)は修正されてきました。その一方で、103万円の給与(配偶者控除)という足かせもあって、産児退職後、職場復帰をしない女性も多いです(詳細は18歳からも始められる金融知識 No7」)。M字カーブの修正に伴い、生産年齢人口の縮小を抑制しながらも根本的な解決には至っていません。

nakatalab.hatenablog.com

 

 そして人口減少→経済衰退といった図式化になっています。そのプロセスの説明がないのが、物足りないなと思いました。なぜ、経済衰退するかは、皆さん、ここまで読み続けていればわかりますよね。人口が減って経済的な購買力が落ちるだけではないですよ。生産年齢人口の減少を抑制してきた女性の社会進出に対して、所得税制上、十分ではなかったことも考えられますよね。そして、そうした日本社会に対して、

 

 資本投資(金融取引)が落ちることも問題ですよね!

 

 また、超高齢社会に向かう中で、少子化している生産年齢世代が高齢者を支えてゆく、そんな人口構造の綻びなどにも外国人が資本投資を避ける面があります。

 

www.gpif.go.jp

 

 

 

小論文教育 No5 小論文のテーマ「グローバール化」に、注意すべきは何か?

小論文教育 No5:小論文のテーマ「グローバール化」に、注意すべきは何か?

 今回、小論文のテーマについて説明していきます。取り上げる参考書は、「試験にでる小論文」(樋口裕一 青春出版社)です。本書によると、次のような10テーマがあります。

 1グローバル化、2ボランティア・福祉、3教育、4民主主義と日本の政治、5日本文化、6少子高齢化・人口減少、7医療、8情報化、9持続可能な社会、10コロナ後の世界

 

 この本の活用の仕方は知識を習得することです。英単語集の意味の確認のように、斜め読みをして自分のよく知らない知識については、ゆっくり読むといいのではないでしょうか?

 時間のない方は、自分の志望校の問題を検討してこの10テーマの内、どのテーマが出題されているかを見てからそのテーマを読み始めることをお勧めします。

 

 それでは、私が気になったテーマを取り上げてみます。

「1グローバル化」です。グローバル化はよく出題されるテーマです。ウクライナへのロシア侵攻以来、考えなければならないテーマへ変わってきていると思います。

 

  皆さんは、答えるべき内容はそう変わらないと考えていると思います。はたしてそうでしょうか?

 

 2008年のリーマンショック以来、世界経済の成長を支えてきた中国、そしてロシアに於けるエネルギー開発、投資、またサプライチェーンによる新興国の経済成長など、グローバル化はこの十年間で進展しました。

 ここまでの内容がグローバル化として問われる内容でした。

 

  では、中国、ロシアは現在、どうなっているでしょうか? 

 

 中国はアメリカと経済対立を引き起こしています。中でも、台湾をめぐる半導体の供給問題です。皆さんのご使用の携帯電話からパソコンやゲーム専用機など、さまざまな電子部品に使われていますよね。

 ロシアはウクライナ侵攻以来、エネルギー価格の高騰をもたらし世界の経済成長に停滞をもたらしています。ガス、石油ですね。石油は車の燃料を思い浮かべますが、プラスチック製品に使用されます。住んでいる家の中のものを見れば、プラスチック製品ばかりですよね。

 さて、こうした中国とロシアと先進国の国際関係が、今までのようには行かないと考えられます。こうした所まで、解答に書く際には知らなければなりません。

 

  だから、小論文の問題は「時事性」に左右されるのです。

 

 さらに「グローバル化が日本国内の階層化をもたらした」(前掲書 p.42)とあります。注意してほしいのは、この書き方です。「階層化」というのは経済的格差をさしているようです。経済的格差をもたらしたのは、グローバル化が原因と読めます。本の中でも、労賃の差が製品の値段の差をもたらした結果、非正規の社員を増やしたことが書かれています。

 非正規の社員が増えれば、所得格差をもたらします。ですが、グローバル化が非正規の社員を増加させたのでしょうか?

 

  皆さん、どう思いますか?

 

 日本の国内の会社は9割以上、中小企業です。皆さんが思い浮かべる、トヨタ、HONDAなどの大企業は1割です。一方で中小企業のほとんどは国内産業で、国内の需給関係で成り立っています(もちらん、中小企業で海外に輸出している企業もあります)。

 そうすると「グローバル化」の中で正規社員の整理をしている大企業についてしか、「グローバル化が日本国内の階層化をもたらした」と、正しくは言えません。

 

  だから、考えることが必要なのです。

 

 次に「2ボランティア・福祉」についてです。「これからの地域の福祉を担うのは、住民のボランティア活動だ」(前掲書 p.51)とあります。注意してほしいのは、この書き方です。ボランティアも必要です。ですが、高齢社会を支えているのは、介護保険制度です。40歳以上になると、誰もがこの保険料を負担します。そして、こうした社会保険料を支えているのは、現役世代です。この社会保障費をまかなえなくなり、赤字国債を発行しています。社会保障制度自体をどのような仕組みで持続していくのかが鍵ではないでしょうか?

 

 たとえば慶應義塾大学のFIT入試では次のようなグラフを読み取らせています((注1)より引用)。

慶應義塾 FIT入試

 今度は、「4民主主義と日本の政治」についてです。正規雇用と非正規雇用の賃金格差の是正が政治の急務である」(前掲書 p.89)とあります。確かにその通りです。ただし、現在、働き方改革以来、多様な働き方を認めることで労働者の生産性を上げて給与upをしようというのが、現在の社会制度改革です。

 たとえば、所得税制も15歳以下の子について扶養控除を廃止し、一律子ども手当にしました。非正規の人も一律に支給されるのです。これも働き方改革の影響です。そうした社会制度について、理解をした上で、それでも「急務」の課題として賃金格差が残されていると書くべきではないでしょうか?

 

 だから、考えて書くことが大事です。

 

 樋口裕一の本書は、受験生が活用すべき参考書です。でも、そのテーマについて考えないといけません。 

 次回は「6 少子高齢化・人口減少」(前掲書)について取り上げます

 

(注1)詳しくは「7日間で合格する小論文」をお読みください。