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小論文教育 No11 日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題(解答編)

小論文教育 No11   日本人は眠れなくなっている? 図表の小論文問題(解答編)

出生率

 この記事は出生数が大卒以外(妻の学齢)では低下しているが、大卒(妻の学歴)では上昇していると指摘(日本経済新聞朝刊2022年10月10日)。女性の教育歴が上昇することで出生率が下がると、一般的には思われています。先進国と発展途上国を比べると、そのことはわかります。あるいは、女性の大学進学率の上昇と出生率の相関を考えると、そうかなと思われます。ですが、この場合、日本の例ですが、その相関が当てはまりません。

 

 なぜでしょうか?  

 

 所得が関連していると指摘しています。

 

 賃金が上がらなければ、将来の生活のために消費を控えます。そして、その将来の不安が大卒以外(妻の学齢)の家族では出生数の減少につながっているわけです。所得格差が出生数の低下につながっているという、困った状況になっています。かつての高度成長の時代は、賃金の上昇があったので出生率は伸びていましたよね。

 ですから、賃金の引上げが大切になってくるのです。

 ただし、ゼロ金利の日本企業は固定費(賃金)を抑制してきました。だから、困った状況にあるのですが。このことについては、また別の機会に。

 

 さて、話を前回の問題に戻します。次のような問題でした。

 近年、睡眠で休養が十分にとれていない者の割合が増加している。表は、令和元年に実施された調査結果で、「あなたの睡眠の確保の妨げとなっていることは何ですか。」という問いへの回答結果を示している。この結果を分析し、睡眠を確保するために必要な対策について、あなたの考えを600~800文字で述べなさい(2022年 順天堂大学 医療科学部 総合型選抜 入学試験問題)。

 次のものはthesilentuniversさんからの解答です。四部分に分けてご指摘をしたいと思います。

 

 図表を各世代の違いに注目して見ると、「仕事」や「家事」は30~39・40~49・50~59歳の割合が他年代に比べて多い。労働年齢の世代は、仕事をする人はしない人に比べて家事に時間を割くことが難しいため、家事の負担が睡眠の妨げになっていると感じる人も多く、「仕事」と「家事」には強い相関関係があると考えてよい。さらに「育児」は30~39歳が最多である。これは30~39歳で出産する人が多いことと強く関係していて、例えば夜中に泣き出した子供をあやすために起きれば、睡眠の妨げとなる。一方、「介護」は50~59歳から、顕著な増加傾向に転じている。これは親が介護を必要とする年齢になる人の増加が背景となっている。また、「健康状態」は30~39歳から段階的に増加している

 

  世代ごとに特徴を指摘しているのはいいです。ただし男女の違いは説明できていな

いですね。ここは、男女に分ける部分と男女に共通する部分の悩みを指摘すると、き

細やかになると思います。

  傍線の部分は、細かい特徴だと思います。このことを指摘するよりは、20代と70代

の男女の悩みをそれぞれ指摘した方がいいかなと思います。

 

 男女別で見ると、「仕事」が女性と比べ男性の割合が顕著に多く、「家事」・「育児」においては男性に比べ女性の割合が多い。この2つの傾向は「女は子育て、男は仕事」の概念から派生する「男性が育児をしにくい環境」が影響している

 

  傍線部は「影響」という要因を指摘しています。問いは「必要な対策」をきいているので、「対策」を書いてください。

 

 これらの傾向や問題点への対策としては、まず、週や月単位で定時退社をする日数を定めた制度を創設することが必要であると考える。これは残業時間の削減を目的としていて、労働時間の削減により、仕事が睡眠の妨げになる人が減少することが期待できる。仕事量が変わらなければ効果はないと指摘する人もいるかもしれないが、洗濯などの家事の合間に仕事をすれば効果は期待できる。加えて、男性の育児休暇取得さらなる促進で家事や育児を睡眠の妨げと感じる割合の男女の差も小さくなっていく。

 

  傍線部は「働き方改革」を進めるとまとめてしまうのはどうでしょうか?その分、余った字数で「女性の働き方」のサポートの面を書くといいでしょう。

 

また、健康状態が睡眠の妨げとなる人が30~39歳の世代以降増加傾向にあることは、加齢による体力の衰えなどに端を発していることが推測されるが、国や企業による定期健康診断受診のさらなる促進により、若い年齢のうちから健康への意識を強く持つことが必要である

 

  傍線部のことよりも、70代以降の高齢者の悩みの対策を書いた方がいいと思います。

 次の解答はGAKKENのものです。

 

 睡眠の確保の妨げとなっている原因は、年齢や性別によって異なる。よって、対策を立てるときにも, それぞれのライフサイクルの特徴に配慮する必要がある。20代では男女ともに「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」が多い。男性では, 30代から 50代では 「仕事」 が多い。女性では、結婚や出産の時期である30代から40代には 「家事」や「育 児」が増える。60代以降は男女ともに、健康状態やその他の要因を回答に挙げる人が多くなる。なお「特に困っていない」と答える人は年代ごとに多くなる。つまり、 20代への対策としては、 睡眠不足による悪影響などの知識を広めるなどして、 睡眠の妨げになっている行動をコントロールできるようにすることが効果的と言える。30代以降については、 男性に対しては仕事の、女性に対しては家事や育児の負担を減らすことが対策になると考えられる。具体的には、まずは業務を適切な責任や量に調整し、長時間労働を減らすことが有効と思われる。男性はもちろん、働きながら育児や家事をこなす女性にとっても仕事の負担が減り, 睡眠の時間や質を確保することができるはずだからだ。加えて、 過剰な労働から解放されれば、 男女で家事や育児を分かち合うことができるようになるはずだ。 表の結果を分析すると、 睡眠が確保できない原因は、日々の社会生活にあることがわかる。 ワーク・ライフ・バランスのとれた生活ができれば,きっとよい睡眠が確保できるようになるだろう。

 

 60代以降の不眠の対策が書かれていないのが、不十分と思います。最後に、私も解答を書いてみました。

 

 から読み取れる、不眠の背景は各世代の生活嗜好やライフイベント、世帯の人数などが関係している。不眠の原因は、20代の男女、30代の男性はSNSやメール、ゲームなどの携帯電話の使用や仕事である。子育てと仕事の両立の時期にあたる、30代から40代の女性は家事・育児が問題となっている。その一方で、家族のライフイベントよりも40代から50代の男性は仕事である。子育て期を終えた50代の女性は家事・育児を問題とする比率が下がる。一人世帯が増えている70代の男女は、健康の不安をどのように対処するかといった問題を抱えている。

 20代の男女については、SNSの拡張とともに個人情報や金融情報などのトラブルにも巻きこまれやすくなっている。そうした問題には消費者庁が相談窓口を設ける。またゲームやyoutubeなどの使用時間の増大には、メンタル面での個人的支援を行い精神的な健康に留意する窓口があるといい。

 20代から50代の生産年齢男性は、労働時間や労働条件などの悩みを抱えている。働き方改革を進めていく中で、法律を整備していく。育児休業の取得率を上げることで、共働きの女性の悩みを軽減することにもなる。

 30代から40代の女性は核家族化による子育ての孤立化に対して支援する組織や相談窓口が必要である。また共働き家族では女性が家事・育児を担っているため、負担軽減のための保育園の活用や家事支援の人材の活用が考えられる。

 70代の高齢者は一人世帯の増加傾向にあり、健康面でのサポートとなる地域医療・介護支援を構築し、NPOなども活用していくことである。

 

 20代の若者の消費活動や消費時間に於ける、携帯電話の影響、そして①女性の社会進出と、それに伴う家族形態の変化、また②所得格差といった問題、あるいは③一人世帯の高齢者の増加といった問題がこの表の数値から読み取れます。

 そうした問題に対する対策をそれぞれ、考えなさいというのが、今求められている社会の問題だと思います。①、②、③については、小論文でよく問われます。

 皆さんが、こうした問題に対してよく考えてほしいという、大学入試の出題者からのメッセージです。わたしも、こうした問題こそ、考えてほしいとおもっています。

 

 繰り返しますが、皆さん、解答を考えてみてください。そして、自分の解答と、その他の解答を並べてみることで、学べる範囲が増えてきます。読者の皆さん、解答を書いてお寄せください。