小論文教育 No6 小論文のテーマ「少子高齢化・人口減少」に、注意すべきは何か?
小論文教育 No6小論文のテーマ「少子高齢化・人口減少」に注意すべきは何か?
前回の続きです。(ここから読み始めた方は「小論文教育 No5」から読み始めると、より理解できると思います)
また「試験にでる小論文」のテーマについて、検討していきます。
「超高齢化により、若い世代の負担が重くなり、世代間格差が大きくなる」(「試験にでる小論文」樋口裕一、青春出版社p.110)というフレーズは、その通りです。さらに「年金は~今働いている人たちが年金のために払っているお金や税金から出ている」と説明しています。「税金」から出ているというのは誤りです。年金は積み立てたものを政府が運用しています(GPIF)ので、「税金」というのはどうなんでしょうか?
「少子化に歯止めがかからないと、日本の人口は減少してしまう」というフレーズ(前掲書p.113)は同義反復に近い内容になっています。さらに「人口が減るというのは、経済的に大きな問題」(前掲書p.113)とあります。確かにそうなんです。ただし、人口が増えない市場に外国資本の投資が行われない、あるいはそうした見込みの中で、円の為替レートがドルに対して円安傾向に向かう。そのために経済的な問題になるといった説明が抜け落ちています。昨今のドル高円安の為替相場を見ていれると、これからの日本市場はどうなるんだろうと思いますよね。
全般的に、経済や金融の説明が不足していますね。
「年率1~3パーセント程度の低い経済成長を続けながら、少子高齢化がさらに進んでも今の豊かさを維持できる社会にしていくほうがよいと考えることもできる」(前掲書p.119)とあります。「年率1~3パーセント程度」もGDP成長率を指しているのでしょうか?もしそうであるならば、1%と2%ではかなりの差があります。今後十年間の平均値が1%か2%かは、社会保障費の財源を左右することになります。1%では現在の社会保障費は破綻してしまいます(詳細は「18歳からも始められる金融知識 No4」)。当然ながら、消費税の増税ということが避けられなくなります。樋口先生、説明が足りませんね。
そこで、経済・金融面の説明が十分であるかを、さらに検証したいと思います。
次に「小論文これだけ! 経済・経営 超基礎編」(樋口裕一 東洋経済新報社)を取り上げます。このシリーズは、各学部をターゲットにしています。短期間で効率よく読める参考書だと思います。
「グローバル化」については、「中国の台頭と『新冷戦』」「新型コロナウイルスの打撃」など現在の世界情勢を踏まえた内容になっています。この点はいいです。古い参考書は、こうした「時事性」を反映していませんので、私はお勧めできません。ただ一つ難点を挙げると、具体例が乏しいかな。
「海外から安い原材料を輸入するからこそ、便利に快適な生活ができる」(前掲書p.85)とあります。ここでも、「石油、LNGガス」のエネルギーの高騰が、生活を不安定にしていくといった具体的な説明がほしいですね。
「人口減少社会」については、その原因として「女性の社会進出」や「育児環境が整っていない」といった内容になっています。「女性の社会進出」が進んでM字カーブ(産児退職など)は修正されてきました。その一方で、103万円の給与(配偶者控除)という足かせもあって、産児退職後、職場復帰をしない女性も多いです(詳細は18歳からも始められる金融知識 No7」)。M字カーブの修正に伴い、生産年齢人口の縮小を抑制しながらも根本的な解決には至っていません。
そして人口減少→経済衰退といった図式化になっています。そのプロセスの説明がないのが、物足りないなと思いました。なぜ、経済衰退するかは、皆さん、ここまで読み続けていればわかりますよね。人口が減って経済的な購買力が落ちるだけではないですよ。生産年齢人口の減少を抑制してきた女性の社会進出に対して、所得税制上、十分ではなかったことも考えられますよね。そして、そうした日本社会に対して、
資本投資(金融取引)が落ちることも問題ですよね!
また、超高齢社会に向かう中で、少子化している生産年齢世代が高齢者を支えてゆく、そんな人口構造の綻びなどにも外国人が資本投資を避ける面があります。